ART & CULTURE

© yonhapnews

ニューヨークのJR
あまたのアーティストがニューヨークに暮らし、それぞれの方法でニューヨークを描き出してきた。ある人は撮影をし、ある人は絵を描き、また別の誰かは演奏をした。フランス出身の写真家、JRの目にニューヨークはどう映っているのだろうか。
いつもサングラスをかけている30代のアーティスト、JRはきょうも飛び回っている。新型コロナウイルス感染がパンデミック(世界的大流行)に発展した3月以降、彼はロックダウン(都市封鎖)により生活が苦しくなったパリ近隣の多くの市民のため、毎日弁当を届けている。レストランを閉めた有名シェフたちと協力して作ったものだ。 また、フランスのラジ・リ監督(映画『レ・ミゼラブル(Les Misérables)』で韓国のポン・ジュノ監督の『寄生虫 半地下の家族』と共にオスカー候補)による映画学校エコール・ド・シネマ・クルトラジメ(L'école de cinema Kourtrajmé)の新しいアートプログラムの指揮を任され、講師を探し、オンライン授業もしっかり統括してきた。そのかたわら、米ニュース誌タイムから依頼され、パンデミックの中で希望のメッセージを発信するため企画された特別号「Finding Hope」の表紙の写真を手掛けた。多くのことが制約されている時期ながら、相も変わらず充実した日々を送っている。
ヒューマニズムで空間を満たすアーティスト、JR
1983年、パリ生まれ。写真家でストリートアーティスト、そして今や社会運動家とも呼ばれるJRは、10代のころは社会問題よりグラフィティを好む少年だった。彼はラジ・リと共にアート集団クルトラジメのメンバーになり、グラフィティアーティストとして活動。パリのあちこちの壁と屋根を人知れず駆け巡り、自身の痕跡を残す手段としてJRというニックネームを使い始めた。これはジャン・レネ(Jean René)という本名のイニシャルで、トレードマークのサングラスとともに彼の正体を隠すアイテムとなった。
そして2001年、パリのRER線の駅で拾った小さなカメラが彼のアートの世界に大きな変化をもたらす。彼は自分と友人のグラフィティの作業をカメラに収めるようになり、これをモノクロにプリントし、フォトコラージュとグラフィティを組み合わせたゲリラ的な展示をパリの街のあちこちで繰り広げていった。
ニューヨーク・シティ・バレエ団

ニューヨーク・シティ・バレエ団とコラボしたアートシリーズ / New York City Ballet Art Series, the Eye of the New York City Ballet, Horizontal, New York, USA, 2014, Colour Photograph, Matte Plexiglass, Aluminium, Wood (face mounted) 180 x 250 cm | 70 7/8 x 98 7/16 inch, Edition of 3 © JR-ART.NET

多くのストリートアーティストがそうであるように、彼の初期の作品も公には認められない、制度の外にあるアートだった。その価値に先に気付いたのはカメラの前に立った市民たちだった。JRは自分のアートを通じて、誰からも関心を持たれなかった人たちの声になった。街のあちこちに広がったメッセージは市民の間に大きな反響を巻き起こし、ほかの地域社会のメンバーとの対話へと導く役割を果たした。こうした市民の大きな呼応のおかげで、当初は違法な掲示物と見なして撤去していた市行政もパブリックアートとして認めるようになった。今やパリをはじめとする複数の都市が彼にラブコールを送っている。
ヒューマニズムあふれる作品が持つメッセージ性の強さに気づいた美術館もまた、今や JR の自発的なコラボレーターだ。アーティストのシェパード・フェアリー(Shepard Fairey)が語るように、ひょっとするとJRは「この時代の最も野心的なアーティスト」なのかもしれない。
JR

JR (French, born 1983). The Chronicles of New York City, 2018–19 (detail). © JR-ART.NET

JRの作品世界
JRの作品の最も大きなテーマは、疎外された人たちの声を代弁するヒューマニズムだ。
彼を世に知らしめた「ある世代のポートレート(Portrait of a Generation)」(2004~2006)は、2005年にパリ郊外のモンフェルメイユと隣のクリシー・ス・ボワを中心に暴動が起きたことを受け、自分が慣れ親しんだ街の人々の話を伝えようと企画したプロジェクトだ。2004年、アパートに写真を張り付ける大型作品を制作したのだが、その近くで警察に追われた地元の少年2人が感電死し、これが暴動の発端となった。彼の作品は世界中のカメラを通して映し出され、注目を集めた。JRはその後、地元の少年のポートレートをパリの富裕層の街あちこちに張り付けた。暴力的な異邦人、移民系の少年としてメディアに報じられた少年は平凡な一般市民の一人なのだというメッセージをこめたもので、このプロジェクトはパリ市民の間で大きな反響を呼び、JRは一躍、注目のアーティストに仲間入りした。
JR

The Chronicles of New York City, composition #5, USA, 2018, Print, glass, wood (framed behind glass) Framed: 62 x 44 x 6 cm. | 24 7/16 x 17 5/16 x 2 3/8 in. Photo by Guillaume Ziccarelli. Courtesy of the artist and Perrotin. © JR-ART.NET

JR

The Chronicles of New York City, composition #3, USA, 2018, Print, glass, wood (framed behind glass) Framed: 62 x 44 x 6 cm. | 24 7/16 x 17 5/16 x 2 3/8 in. Photo by Guillaume Ziccarelli. Courtesy of the artist and Perrotin. © JR-ART.NET

続いてJRは、対立が続くパレスチナとイスラエルを訪れ、同じ職業に従事する両国の住民のポートレートを並べた。見かけでは区別しにくい互いがなぜこうも争わなければならないのかと問いかけ、真剣な対話へと導く「向き合って(Face 2 Face)」(2007)という作品。両国内の各都市の通りに展示し、彼の存在感を今一度世界に示した。
初期のプロジェクトは現地の政府や市の許可なく行ったため、違法のアーティストと呼ばれた。TEDカンファレンスで知られる米グループのTEDは、その一連のプロジェクトが持つ破壊力を高く買い、彼を2011年のTEDプライズ受賞者に選定することで世界的なアーティストと認めた。それまでビル・クリントンやU2のボノといった著名人にしか賞を贈ってこなかったTEDが、JRが注目する人道的なメッセージに高い評価をつけたのだ。
彼はTEDプライズ受賞の企画として、世界各国で40万人以上の人々が参加して自分の写真をアップロードするグローバルプロジェクト「インサイドアウト(Inside Out)」(2011~現在)を今も進行中だ。ルーブル美術館正面のピラミッドを利用した「JRオー・ルーブル(JR au Louvre)」(2016、2019)、「ザ・クロニクルズ・オブ・サンフランシスコ(The Chronicles of San Francisco)」(2018)、「ザ・クロニクルズ・オブ・ニューヨーク(The Chronicles of New York City)」(2019)など、無許可の大型壁画と展示プロジェクトも今なお並行している。
JR

JR (French, born 1983). The Chronicles of New York City, 2018–19. Details of participants. Inkjet print on vinyl. © JR-ART.NET

JR

ブルックリンのドミノパークに設置した「ザ・クロニクルズ・オブ・ニューヨーク」/ The Chronicles of New York City, JR, and Triangle STACK #2, LOT-EK at Domino Park, Brooklyn, New York © JR-ART.NET

JR

The Chronicles of New York City – Sketches, 2019, Perrotin New York. Photo by Guillaume Ziccarelli. Courtesy of the artist and Perrotin. © JR-ART.NET

JR

JR: Chronicles, Brooklyn Museum. © Jonathan Dorado

JRとニューヨーク
各地でいくつものプロジェクトを手掛けてきたJRにとって、ニューヨークは休息の場で作業室でもあるホームの一つ。ニューヨークに渡って早10年余り、これまで米国はさまざまなプロジェクトのインスピレーションを与えてくれた。2017年にはメキシコのアーティスト、ディエゴ・リベラ(Diego Rivera)のミューラルアートから着想を得て、 都市と人々の姿を収めたシリーズのプロジェクト「ザ・クロニクルズ」をサンフランシスコとニューヨークで披露した。また、移民の物語を伝える「Migrants」(2017)、米国の銃所持規制問題を扱った「The Gun Chronicles: A Story of America」(2018)などを通じて、米国社会の本質的な問題を見つめた。
「ザ・クロニクルズ・オブ・ニューヨーク」は約1100人のニューヨーカーのポートレートとインタビューを集めたもので、ブルックリン・ミュージアムで2019年10月に始まったJRの大型展示会「JR:クロニクルズ」のメーン作品としてグレートホールで初披露された。「ザ・クロニクルズ・オブ・サンフランシスコ」と同じ方法、つまり簡易スタジオを載せた大型トラックでニューヨークの5つの行政区を巡り、通りを歩く住民を立たせて撮影した。参加した人々はキャラクターとポーズを自分で決め、自身のストーリーを録音した。自分がどう見られたいと願っているのかが分かるもので、そこに各自の物語が加わることにより、巨大な写真の中で個人の人生が息づいているような感じが伝わってくる。その中にはニューヨーカーである映画俳優、ロバート・デ・ニーロも混じっている。「ウォーリーをさがせ!」のようにデ・ニーロの姿を探すのも面白そうだ。
JR

ニューヨークのタイムズスクエアで行った、人々のポートレートをアップロードするプロジェクト/ JR (French, born 1983)。Inside Out, Times Square, New York City, 2013. Installation image. Wheat-pasted posters on buildings. © JR-ART.NET

今年5月3日まで予定されていた展示は、新型コロナウイルスの影響で3月中旬にニューヨークがロックダウンされるとブルックリン・ミュージアムの休館に伴い中断した。ロックダウンが終われば展示は延長される予定。
観覧に出掛けたなら、周りにサングラスをかけた30代の男性がいないか、よく見てほしい。JR本人が会場を訪れて来場者の反応をうかがうこともしばしばあるという話だ。この時代の偉大なアーティストに出会わないとも限らない。運が良ければ、彼が手掛けるプロジェクトに直接参加してあなたの声と物語を世界に伝える幸運をつかめるかもしれない。
ロッテニューヨークパレス

ニューヨークでの滞在: ロッテニューヨークパレス
ロッテニューヨークパレスは19世紀末に建てられた資本家ヘンリー・ビラードのマンションと、55階建ての近代式なタワーが共存するホテルだ。米ドラマ「ゴシップガール」をはじめ、いくつもの映画に登場した建物は、ニューヨーク旅行の必須コースとなっている。客室は全909室。15世紀のイタリアの大聖堂をモチーフにした美しい庭園があり、レストランビラードや高級サロンのレアリティーズ、カクテルバーのトラブルズ・トラストなど、レストランとバーもそろっている。

住所 455 Madison Avenue at 50th Street, New York
電話 +1-800-804-7035
ホームページ www.lottenypalace.com
July 2020 編集:鄭宰旭
文:鄭載勲
資料提供: perrotin / The Brooklyn Museum

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  • July 2020
  • 編集: 鄭宰旭
    文: 鄭載勲
  • 資料提供:
    perrotin / The Brooklyn Museum
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