
アトリエにいる李姃恩
本でなく本の絵、そして韓国画家・李姃恩
李姃恩(イ・ジョンウン)は、朝鮮王朝時代に流行した冊架図(本棚や文房具などの絵)を描く韓国画家だ。紙の本と電子書籍が共存し、本の終末を論じる時代、彼女が描いた本の絵は依然として魅力的で素敵だ。
18世紀後半から20世紀まで、朝鮮王朝時代に一世を風靡した絵。それこそが冊架図だ。冊架図は本棚の中に本をはじめ陶磁器、文房四友(筆、墨、紙、硯)などが置かれた様子を描いた絵を指す。学問で国を治めようとした朝鮮第22代王の正祖がその意志を示すため、玉座の後ろに日月五峰図の屏風の代わりに冊架図の屏風を置いたことから冊架図の流行が始まったとされる。冊架図には本と関連のない花瓶、茶碗、器など高級食器のほか、多産と長寿を象徴する植物も描かれたが、これを通して当時流行したぜいたく品やソンビ(学識のある人)の生活を覗くこともできる。
21世紀の現在、韓国画家の李姃恩も冊架図を描く。主に本の形だけが描かれた過去の冊架図とは異なり、「その男ゾルバ」「コスモス」「写真の歴史」など本の背に書かれたタイトル一つひとつがはっきり見える彼女の冊架図には、物語があふれている。本棚を埋めた本と本の間に置かれたフィギュア、土産物などから本棚の持ち主の性向を想像していると、この本棚を誕生させた主人公の韓国画家、李姃恩のことが気になった。日常と身の回りからモチーフを見つけ、現在は自身が飼っている猫に夢中である彼女と、天気のよい午後にアトリエで会った。
21世紀の現在、韓国画家の李姃恩も冊架図を描く。主に本の形だけが描かれた過去の冊架図とは異なり、「その男ゾルバ」「コスモス」「写真の歴史」など本の背に書かれたタイトル一つひとつがはっきり見える彼女の冊架図には、物語があふれている。本棚を埋めた本と本の間に置かれたフィギュア、土産物などから本棚の持ち主の性向を想像していると、この本棚を誕生させた主人公の韓国画家、李姃恩のことが気になった。日常と身の回りからモチーフを見つけ、現在は自身が飼っている猫に夢中である彼女と、天気のよい午後にアトリエで会った。

李姃恩、「つながり」、100×70センチ、長紙に彩色、2017 © イ・ファイクギャラリー

李姃恩、「デザイナーの本棚」、85×145センチ、長紙に彩色、2018 © イ・ファイクギャラリー
Q. 初めて冊架図を描くことになったきっかけを教えてください。冊架図にどんな魅力を感じたのですか?
A. 中学生の時に美術を専攻することを決め、芸術科のある中学、高校を卒業しました。少し早めに進路を決めた方ですね。そうやってずっと絵を描いてきて、東洋画を専攻してから最初は人体を主に描きました。それから結婚後、育児で生活環境が変わると、自分の視線も身の回りの小さなものに向かいました。子供が手に持って遊んだおもちゃ、玄関に脱ぎ捨てられた3人分のスニーカー、夫が散らかした碁盤、歯ブラシスタンドに刺さっている歯ブラシ3本、画材、本。自分の周囲にあるものが絵の素材になりました。描く時間を確保するのも大変なので、小さなキャンバスに描いた絵が多かったです。でも個展を開くには60号以上の大きな絵がなければならないと考えました。本はいつも描いている素材でしたから、自然と冊架図の形式を取った絵を描くようになりました。本棚はその人のアイデンティティーが表れる空間です。職業、関心事、経験など、その人の多くの部分がそのまま表れる品物でいっぱいです。それが冊架図の魅力だと思います。
Q. 具体的な人物を思い浮かべながら絵を描く方ですか?
A. 「平和な本棚」のような作品は気楽な雰囲気の本棚を描きたかったので、旅行やグルメなどの本が混在しています。でも「職業の本棚」を描く時には具体的な人物を思い浮かべていたと思います。デザイナーをしている弟のスタジオを見て「デザイナーの本棚」を描き、偶然訪れた友人の義姉が教えている学校の研究室を見て「音楽の本棚」を完成させました。機会があれば職業別に本棚を描いてみたいです。
A. 中学生の時に美術を専攻することを決め、芸術科のある中学、高校を卒業しました。少し早めに進路を決めた方ですね。そうやってずっと絵を描いてきて、東洋画を専攻してから最初は人体を主に描きました。それから結婚後、育児で生活環境が変わると、自分の視線も身の回りの小さなものに向かいました。子供が手に持って遊んだおもちゃ、玄関に脱ぎ捨てられた3人分のスニーカー、夫が散らかした碁盤、歯ブラシスタンドに刺さっている歯ブラシ3本、画材、本。自分の周囲にあるものが絵の素材になりました。描く時間を確保するのも大変なので、小さなキャンバスに描いた絵が多かったです。でも個展を開くには60号以上の大きな絵がなければならないと考えました。本はいつも描いている素材でしたから、自然と冊架図の形式を取った絵を描くようになりました。本棚はその人のアイデンティティーが表れる空間です。職業、関心事、経験など、その人の多くの部分がそのまま表れる品物でいっぱいです。それが冊架図の魅力だと思います。
Q. 具体的な人物を思い浮かべながら絵を描く方ですか?
A. 「平和な本棚」のような作品は気楽な雰囲気の本棚を描きたかったので、旅行やグルメなどの本が混在しています。でも「職業の本棚」を描く時には具体的な人物を思い浮かべていたと思います。デザイナーをしている弟のスタジオを見て「デザイナーの本棚」を描き、偶然訪れた友人の義姉が教えている学校の研究室を見て「音楽の本棚」を完成させました。機会があれば職業別に本棚を描いてみたいです。

アトリエを埋める作家の絵
Q. 冊架図を描く時に重要だと考えることは何ですか?
A. 造形的には調和とバランスに気を使い、内容的にはその品物に込められた人々との思い出を描こうとしています。ただ素材として品物と接するのではありません。「音楽の本棚」だからといって音楽の本だけを描くのは少し退屈ですよね。例えばウィーンの旅行のお土産、モーツァルトの木彫りの人形、花瓶や自分の周りにあるさまざまな品物を冊架図に描くのです。個展を行った時にもらったクッキーの箱やティーボックスを冊架図に描き、感謝の気持ちを描き込んだりもします。私にとっては一種の儀式のようなものですね。
A. 造形的には調和とバランスに気を使い、内容的にはその品物に込められた人々との思い出を描こうとしています。ただ素材として品物と接するのではありません。「音楽の本棚」だからといって音楽の本だけを描くのは少し退屈ですよね。例えばウィーンの旅行のお土産、モーツァルトの木彫りの人形、花瓶や自分の周りにあるさまざまな品物を冊架図に描くのです。個展を行った時にもらったクッキーの箱やティーボックスを冊架図に描き、感謝の気持ちを描き込んだりもします。私にとっては一種の儀式のようなものですね。

思い出の詰まった本や小物がアトリエのあちこちに飾られている。
Q. 身の回りにある品物を描くとのお話ですが、このアトリエにある品物のエピソードが気になります。
A. 本は基本的に母と母の友人からもらったものです(李姃恩の母は「花の画家」として有名な東洋画家、盧淑子(ノ・スクジャ)画伯だ)。母の友人たちもみんな美術家なのですが、本を処分したいと思っていたところ、ちょうど私が絵を描くのでたくさん譲ってくれました。洋書がほとんどなので全部読めてはいませんが、表紙を描きながら感謝の気持ちを込めました。キルトのテディベアは、私が子どもに作ってあげたものです。とてもくたびれているでしょう?テディベアも冊架図にたくさん描きました。私はこのようなキルト製品に母性の意味を付け加えたりもします。テディベアの横にあるオルゴールは、子どもの先輩がロシア旅行に行ってきてプレゼントしてくれたものです。「君のママの絵に描いたらいいよ」と言いながらくれたそうです。「美術の本棚」に描きました。また、夫が出張先で買ってきたものもあり、友人が旅行のお土産にくれたティーボックスもあります。一つひとつにその人が宿っているようです。
A. 本は基本的に母と母の友人からもらったものです(李姃恩の母は「花の画家」として有名な東洋画家、盧淑子(ノ・スクジャ)画伯だ)。母の友人たちもみんな美術家なのですが、本を処分したいと思っていたところ、ちょうど私が絵を描くのでたくさん譲ってくれました。洋書がほとんどなので全部読めてはいませんが、表紙を描きながら感謝の気持ちを込めました。キルトのテディベアは、私が子どもに作ってあげたものです。とてもくたびれているでしょう?テディベアも冊架図にたくさん描きました。私はこのようなキルト製品に母性の意味を付け加えたりもします。テディベアの横にあるオルゴールは、子どもの先輩がロシア旅行に行ってきてプレゼントしてくれたものです。「君のママの絵に描いたらいいよ」と言いながらくれたそうです。「美術の本棚」に描きました。また、夫が出張先で買ってきたものもあり、友人が旅行のお土産にくれたティーボックスもあります。一つひとつにその人が宿っているようです。

手作りして子どもにプレゼントしたキルトのテディベア

猫のスケッチ。彼女の冊架図には猫が欠かせない。
Q. 冊架図に必ず猫が登場するのは、特別な理由があるのですか?
A. 猫を初めて本棚に描き始めたのは、弟が飼っている猫のおかげです。弟のインスタグラムに投稿される写真を見ると、いつも本棚の上のあちこちに2匹の猫がいます。絵や彫刻のように座っているのですが、その姿があまりに美しくて描くようになりました。それから、私が昨年の春に猫を2匹飼うことになり、猫に夢中になっているということもあります(笑)。もう一つは、猫の生命力でしょうか。植物や他の動物の生命力が絵をよりリアルな空間のように感じさせてくれる気がします。最近は絵を描く時に本を配置した後、まず猫の位置を決めます。
A. 猫を初めて本棚に描き始めたのは、弟が飼っている猫のおかげです。弟のインスタグラムに投稿される写真を見ると、いつも本棚の上のあちこちに2匹の猫がいます。絵や彫刻のように座っているのですが、その姿があまりに美しくて描くようになりました。それから、私が昨年の春に猫を2匹飼うことになり、猫に夢中になっているということもあります(笑)。もう一つは、猫の生命力でしょうか。植物や他の動物の生命力が絵をよりリアルな空間のように感じさせてくれる気がします。最近は絵を描く時に本を配置した後、まず猫の位置を決めます。

猫と花瓶、花でいっぱいの彼女の冊架図
Q. 花瓶も冊架図によく登場し、花瓶と花を素材にした作品もたくさんあります。ですが、最初は花を描かなかったそうですね。
A. 花を描かなかったわけではありません。母が花ばかり描いていたからか、私にとっては花は少し避けたい素材だったのかもしれません。でも、花の美しさを避けて通ることはできませんでした(笑)。季節に合う花を買って飾ることは、私が日常生活で楽しめる小さなぜいたくであり、大きくもささやかな幸福でした。花は絵のとてもよい素材でもあります。花瓶は母が台湾旅行中に博物館で買った中国の花瓶の本を見て描いたものです。最初は花瓶があまりに装飾的でどのように描けばいいかわかりませんでしたが、一つ描いてみるととても面白かったのです。博物館にだけ展示されている花瓶ですが、絵に描くことでそれに似合う花を生ける楽しみがありました。実際にはペットボトルに花を挿して高さを合わせた後、作業台に乗せて絵を描きます。花はだいたい立体的に描き、花瓶は形や模様が引き立つように明暗の表現をつけずに平面的に描きます。
Q. でも、不自然さが全くありませんね。高級な花瓶とカジュアルなフィギュアが調和しているのも不思議です。
A. 東洋画は基本的に平面性を帯びています。また、個人的には幼いころから美術に触れ、水彩画のような技法を習いもしました。そうすることで表現方法の形式にとらわれず、それぞれの品物がよく引き立つように描こうとしています。
A. 花を描かなかったわけではありません。母が花ばかり描いていたからか、私にとっては花は少し避けたい素材だったのかもしれません。でも、花の美しさを避けて通ることはできませんでした(笑)。季節に合う花を買って飾ることは、私が日常生活で楽しめる小さなぜいたくであり、大きくもささやかな幸福でした。花は絵のとてもよい素材でもあります。花瓶は母が台湾旅行中に博物館で買った中国の花瓶の本を見て描いたものです。最初は花瓶があまりに装飾的でどのように描けばいいかわかりませんでしたが、一つ描いてみるととても面白かったのです。博物館にだけ展示されている花瓶ですが、絵に描くことでそれに似合う花を生ける楽しみがありました。実際にはペットボトルに花を挿して高さを合わせた後、作業台に乗せて絵を描きます。花はだいたい立体的に描き、花瓶は形や模様が引き立つように明暗の表現をつけずに平面的に描きます。
Q. でも、不自然さが全くありませんね。高級な花瓶とカジュアルなフィギュアが調和しているのも不思議です。
A. 東洋画は基本的に平面性を帯びています。また、個人的には幼いころから美術に触れ、水彩画のような技法を習いもしました。そうすることで表現方法の形式にとらわれず、それぞれの品物がよく引き立つように描こうとしています。

本格的な作業に入る前に、簡単なスケッチをする。

画家、李姃恩の作業道具
Q. 作業方法も気になります。どのような過程を経て冊架図を完成させるのですか?
A. 伝統的な彩色技法で作業をします。長紙という、コウゾの繊維でできた紙があります。私は無漂白の黄色い紙を使っています。その上に膠(にかわ)という接着剤を薄めて粘度を下げたものを塗ります。膠泡水というのですが、私はこれを透明にはしません。絵の具を少し使って縦横に多い時は20回、少ない時は12回ほど塗り、私が望む色のキャンバスを作ります。その上に色を重ねていくのです。例えば、この冊架図の本の色を出すには5回以上色を塗り重ねなければなりません。私が望んだ色が出るまで何度も塗ります。
A. 伝統的な彩色技法で作業をします。長紙という、コウゾの繊維でできた紙があります。私は無漂白の黄色い紙を使っています。その上に膠(にかわ)という接着剤を薄めて粘度を下げたものを塗ります。膠泡水というのですが、私はこれを透明にはしません。絵の具を少し使って縦横に多い時は20回、少ない時は12回ほど塗り、私が望む色のキャンバスを作ります。その上に色を重ねていくのです。例えば、この冊架図の本の色を出すには5回以上色を塗り重ねなければなりません。私が望んだ色が出るまで何度も塗ります。

アトリエに行くたびに画板の横に書いた正の字
Q. 工程が多く、時間もかかる作業ですね。
A. とても手間がかかります。黒い背景に白い文字を書く時には少なくとも3回は書かなければなりません。下地が浮き上がってくるからです。白に黒い文字を書く時も同じです。さまざまな分野の達人を紹介する「生活の達人」などのテレビ番組に出演する方を見ると、結果を得るために各自が置かれた場所で長い時間仕事をされますよね。その過程がとても大変だったりもします。絵を描くのに長い時間がかかるということをわざわざ話したいとは思いません。私はただ絵で見せたいのです。
Q. それでも話していただくとすれば、作品一つを完成させるのに普通はどれほどかかりますか?
A. 最近同じ質問をよくされます。アトリエに行くたびにキャンバスの横に正の字を書いてみたのですが、100号程度の冊架図を描くのに1カ月ほどかかりました。アトリエに行けない日も含めると、もう少し時間がかかったということですね。
Q. 過去に冊架図を所蔵していた人と、現在先生の冊架図を好む人は違いがありそうです。どんな人が作品に関心を持っているかご存じですか?
A. 数年前からイ・ファイクギャラリーでの展示をはじめ、さまざまな方面で作品を扱っていただいているので、具体的にどのような方が私の絵を所蔵し、関心を持ってくださっているかはよく分かりません。でも、ギャラリーの社長がこんな話をしたことがあります。「音楽の本棚」がアートフェアのKIAFで午前中に売れたのですが、午後に来られた方が自分は音楽の教授で、「音楽の本棚」をレッスン室に飾りたかったのに買い逃したのだと。「職業の本棚」の場合はその職業に就かれている方が喜んでくださるようです。
A. とても手間がかかります。黒い背景に白い文字を書く時には少なくとも3回は書かなければなりません。下地が浮き上がってくるからです。白に黒い文字を書く時も同じです。さまざまな分野の達人を紹介する「生活の達人」などのテレビ番組に出演する方を見ると、結果を得るために各自が置かれた場所で長い時間仕事をされますよね。その過程がとても大変だったりもします。絵を描くのに長い時間がかかるということをわざわざ話したいとは思いません。私はただ絵で見せたいのです。
Q. それでも話していただくとすれば、作品一つを完成させるのに普通はどれほどかかりますか?
A. 最近同じ質問をよくされます。アトリエに行くたびにキャンバスの横に正の字を書いてみたのですが、100号程度の冊架図を描くのに1カ月ほどかかりました。アトリエに行けない日も含めると、もう少し時間がかかったということですね。
Q. 過去に冊架図を所蔵していた人と、現在先生の冊架図を好む人は違いがありそうです。どんな人が作品に関心を持っているかご存じですか?
A. 数年前からイ・ファイクギャラリーでの展示をはじめ、さまざまな方面で作品を扱っていただいているので、具体的にどのような方が私の絵を所蔵し、関心を持ってくださっているかはよく分かりません。でも、ギャラリーの社長がこんな話をしたことがあります。「音楽の本棚」がアートフェアのKIAFで午前中に売れたのですが、午後に来られた方が自分は音楽の教授で、「音楽の本棚」をレッスン室に飾りたかったのに買い逃したのだと。「職業の本棚」の場合はその職業に就かれている方が喜んでくださるようです。

李姃恩、「冊架図に込めた物語」、130×162センチ、長紙に彩色、2017 © イ・ファイクギャラリー

李姃恩、「実を結ぶ季節」、105×75センチ、長紙に彩色、2018 © イ・ファイクギャラリー

李姃恩、「調和」、100×70センチ、長紙に彩色、2017 © イ・ファイクギャラリー
Q. 現代的な冊架図を、見る人にどのように感じてほしいですか?
A. 私が気楽に描いた絵なので、見る人にも気楽に見てほしいです。椅子を近景として本の前に描いていますが、そうすることで冊架図が実際の空間のように感じられればという気持ちもあります。そして、冊架図にはごちゃごちゃとたくさんの物語が込められています。最初に描いた冊架図のタイトルは「冊架図に込められた物語」です。そんなふうに、冊架図を絵本を読むようにゆっくりと鑑賞していただけたらうれしいです。
Q. 冊架図以外に最近よく描いている対象はありますか?
A. 私は終始一貫自分の日常と身の回りを描いていますが、昨年の4月に猫が私の暮らしにやってきました。これは「許された平安」という絵ですが、新型コロナウイルスが広がって以降、ある限定された空間で楽しむ自由のようなものがありますよね。私は猫に対して、病気にならない以上は安らかな生活を送らせてあげたいですし、実際にもそうしてあげられると思います。私はクリスチャンなので、神様も私たちにそのような平安を許したいのではないかと思いました。それで「許された平安」というタイトルをつけたのです。一杯のお茶を飲める余裕があり、好きな画集をめくることができ、猫がこうやってのんびりと寝そべっています。最近こうして猫を上から見下ろす絵を何枚か描きました。当分の間、猫を描き続けることになりそうです。外出しているとすごく猫に会いたくなります。もし頻繁に旅行に行かなければならない環境になれば、風景も描きたいです。でも、まだそうやって広い場所を見る心の余裕がないようです。
A. 私が気楽に描いた絵なので、見る人にも気楽に見てほしいです。椅子を近景として本の前に描いていますが、そうすることで冊架図が実際の空間のように感じられればという気持ちもあります。そして、冊架図にはごちゃごちゃとたくさんの物語が込められています。最初に描いた冊架図のタイトルは「冊架図に込められた物語」です。そんなふうに、冊架図を絵本を読むようにゆっくりと鑑賞していただけたらうれしいです。
Q. 冊架図以外に最近よく描いている対象はありますか?
A. 私は終始一貫自分の日常と身の回りを描いていますが、昨年の4月に猫が私の暮らしにやってきました。これは「許された平安」という絵ですが、新型コロナウイルスが広がって以降、ある限定された空間で楽しむ自由のようなものがありますよね。私は猫に対して、病気にならない以上は安らかな生活を送らせてあげたいですし、実際にもそうしてあげられると思います。私はクリスチャンなので、神様も私たちにそのような平安を許したいのではないかと思いました。それで「許された平安」というタイトルをつけたのです。一杯のお茶を飲める余裕があり、好きな画集をめくることができ、猫がこうやってのんびりと寝そべっています。最近こうして猫を上から見下ろす絵を何枚か描きました。当分の間、猫を描き続けることになりそうです。外出しているとすごく猫に会いたくなります。もし頻繁に旅行に行かなければならない環境になれば、風景も描きたいです。でも、まだそうやって広い場所を見る心の余裕がないようです。

カーペットの上に寝そべった猫2匹が空中をにらんでいる絵が作家の最新作、「許された平安」だ。
Q. 「日記を書くように毎日描いた絵」という文章を読みました。最近も日記を書くように毎日絵を描いていますか?
A. 絵を描くことは、私にとって日常そのものです。大それたものではなく、いつもしていることです。朝起きて顔を洗い、時間になれば食事をして、猫に餌をやるようにです。むしろ、日記を毎日書いてはいません(笑)。今のように母親の体調が悪かったり、絵よりも重要で急ぎの用事があったりする日を除いては、いつもアトリエに来るようにしています。ここにいるのが一番好きです。気分も安定して、どんな心配事も忘れられます。アトリエに入ると5分以内に絵を描き始め、出るまで描き続けます。息子が50分作業したら必ず10分は休めとアラーム時計を置いてくれましたが、絵を描いていると3時間があっという間に過ぎてしまいます。でも、何かに集中する人々はみんなそうじゃないでしょうか。映画が好きな人が映画を何本も続けて観るように。絵が私にとってはそういうものですが、胸を張って続けられる仕事だということにいつも感謝しています。
Q. 最初に身の回りの物を描いたのも、筆を置かないために選んだことのように感じられます。
A. その通りです。ずっと筆を持っていたかったのです。その時は少し大変でした。1日に2時間を捻出するのも難しかったのです。ある日は30分ずつこま切れに絵を描きました。結果はつたないものでしたが、描き続けないと自分自身があまりに価値がないと感じていた気がします。私も両親に愛され、応援されてきたのに、これからは誰かをサポートする立場として生きなければならなかったじゃないですか。今考えれば、あの時毎月家賃を払って自分のアトリエを確保し、ほそぼそと描き続けていたのは、自分が価値がある人間だと感じるために、自分自身を応援することが必要だからだったのでしょう。「私が応援してあげる。あなたはまだ終わっていない」と。
A. 絵を描くことは、私にとって日常そのものです。大それたものではなく、いつもしていることです。朝起きて顔を洗い、時間になれば食事をして、猫に餌をやるようにです。むしろ、日記を毎日書いてはいません(笑)。今のように母親の体調が悪かったり、絵よりも重要で急ぎの用事があったりする日を除いては、いつもアトリエに来るようにしています。ここにいるのが一番好きです。気分も安定して、どんな心配事も忘れられます。アトリエに入ると5分以内に絵を描き始め、出るまで描き続けます。息子が50分作業したら必ず10分は休めとアラーム時計を置いてくれましたが、絵を描いていると3時間があっという間に過ぎてしまいます。でも、何かに集中する人々はみんなそうじゃないでしょうか。映画が好きな人が映画を何本も続けて観るように。絵が私にとってはそういうものですが、胸を張って続けられる仕事だということにいつも感謝しています。
Q. 最初に身の回りの物を描いたのも、筆を置かないために選んだことのように感じられます。
A. その通りです。ずっと筆を持っていたかったのです。その時は少し大変でした。1日に2時間を捻出するのも難しかったのです。ある日は30分ずつこま切れに絵を描きました。結果はつたないものでしたが、描き続けないと自分自身があまりに価値がないと感じていた気がします。私も両親に愛され、応援されてきたのに、これからは誰かをサポートする立場として生きなければならなかったじゃないですか。今考えれば、あの時毎月家賃を払って自分のアトリエを確保し、ほそぼそと描き続けていたのは、自分が価値がある人間だと感じるために、自分自身を応援することが必要だからだったのでしょう。「私が応援してあげる。あなたはまだ終わっていない」と。

画家、李姃恩のアトリエ全景
Q. 今後の計画を教えてください。
A. 今後の計画…。計画なしに生きるというのもなんですが、最近痛感したのは人生は計画通りにいくものではないということです。数年間は、時間に追われることなく楽しく絵を描いていました。ところが昨年からは母が病気になり、心配事ができると絵の優先順位が下がってしまいました。最初に絵を描いた時から細く長く続けたいと考えていました。イ・ファイクギャラリーの社長からもメールをもらったことがありますが、私が絵を描くことに対して水も出ない場所を一人で掘り進めるようなつらさを感じないよう、またあまりに早く有名になってコミュニケーションの楽しさに溺れないよう、ちょうどよい時期に作品を発表させてくれたように思います。でも、イ・ファイクギャラリーとのご縁ができたのもそうですし、そのような過程により助けられました。私の計画通りになったことはほとんどありません。だからいつも考えます。ただ絵を描き続けられるのが一番いいことだと。
A. 今後の計画…。計画なしに生きるというのもなんですが、最近痛感したのは人生は計画通りにいくものではないということです。数年間は、時間に追われることなく楽しく絵を描いていました。ところが昨年からは母が病気になり、心配事ができると絵の優先順位が下がってしまいました。最初に絵を描いた時から細く長く続けたいと考えていました。イ・ファイクギャラリーの社長からもメールをもらったことがありますが、私が絵を描くことに対して水も出ない場所を一人で掘り進めるようなつらさを感じないよう、またあまりに早く有名になってコミュニケーションの楽しさに溺れないよう、ちょうどよい時期に作品を発表させてくれたように思います。でも、イ・ファイクギャラリーとのご縁ができたのもそうですし、そのような過程により助けられました。私の計画通りになったことはほとんどありません。だからいつも考えます。ただ絵を描き続けられるのが一番いいことだと。