
さまざまな種類のキムチ © 李鍾根
11月の儀式、キムジャンとキムチ
韓国人にとってキムジャン(キムチ作り)は冬の保存食以上の意味を持つ。キムチは四季のさまざまな食材で漬けられ、一年を通じて食卓に上る。国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に指定されたキムジャンと、韓国の食文化を代表するキムチの価値をひもといてみた。

ハクサイのキムチ
キムチをご存じですか?
キムチは今や海外でもそれほど珍しい食べ物ではない。名実ともに韓国料理を代表するメニューとして、海外の人気ユーチューバーもキムチの作り方を紹介するほどだ。世界的な健康食のトレンドとあいまって、発酵食品のキムチは健康によい食品として注目されている。
韓国人はいつからキムチを食べてきたのだろうか?キムチの起源は野菜の塩漬けだ。キムチは漢字の「沈菜」が変形したもので、沈菜とは野菜を塩水で漬けるという意味だ。考古学的には三国時代に生野菜を塩やしょうゆで漬ける単純な料理法で食べたとの記録がある。
韓国人はいつからキムチを食べてきたのだろうか?キムチの起源は野菜の塩漬けだ。キムチは漢字の「沈菜」が変形したもので、沈菜とは野菜を塩水で漬けるという意味だ。考古学的には三国時代に生野菜を塩やしょうゆで漬ける単純な料理法で食べたとの記録がある。

「朝鮮シェフ徐有グのキムチ物語」で紹介された蘿蔔淡しょ法で漬けられたダイコンと野菜。 蘿蔔はダイコンを指す言葉。 © 楓石文化財団飲食研究所
キムジャンは長い冬に備えることから始まった。水分が多い野菜や魚類、肉類を長い間貯蔵するには、腐敗を防ぐために乾燥させたり塩漬けにしたりする方法を用いなければならなかった。韓国を含め、四季がはっきりしている中国や日本などの東アジア地域で漬物文化が発達したのもそのためだ。だが、同じ漬物文化圏にも違いがある。寒い中国や韓国の北部地方では酢や塩、しょうゆで漬ける漬物類が発達し、暑く湿度が高い日本では米ぬかで漬ける単純な漬物類が発達した。キムチはダイコン、ハクサイ、キュウリなどの野菜に塩をもみ込み、チョッカル(塩辛)、トウガラシ、ネギ、ニンニク、しょうがなどさまざまなヤンニョム(薬味)を混ぜて漬けた野菜の塩蔵発酵食品で、発酵により独特な風味と香りが加わるのが特徴だ。



塩漬けのハクサイと赤い野菜のヤンニョムが出会い、キムチになる。
キムチになる材料
ほとんどの人はキムチといえば、コチュカル(粉トウガラシ)で色をつけた「赤い」キムチを思い浮かべる。しかし、赤いキムチの歴史はそれほど長くない。朝鮮王朝時代の壬辰倭乱(文禄・慶長の役)以降、韓国にトウガラシが伝来したことで食べ物にも変化が生まれた。からし、こしょうなど多く使われてきた香辛料の代わりにトウガラシを使用し始めたのだ。野菜を塩水で漬けてしょうが、さんしょうなどの香辛料を入れたキムチにもトウガラシを入れるようになった。しかし、トウガラシがキムチの代表的なヤンニョムとして定着したのは、トウガラシが伝えられてから約200年後のことだ。1766年、朝鮮王朝21代王の英祖の時代に編さんされた農書「増補山林経済」にトウガラシをヤンニョムとして使用したとの記述が出てくる。
コチュカルを入れてあえる方式は19世紀に本格化し、このようなキムチが全国に広まったのは20世紀半ばと推定される。それ以降、トウガラシが入っていないキムチは白キムチという形で残った。また、朝鮮王朝時代末期に韓国で良質のトウガラシを栽培し、主材料として使用することで現在のようなキムチの形が根付き始めた。
コチュカルを入れてあえる方式は19世紀に本格化し、このようなキムチが全国に広まったのは20世紀半ばと推定される。それ以降、トウガラシが入っていないキムチは白キムチという形で残った。また、朝鮮王朝時代末期に韓国で良質のトウガラシを栽培し、主材料として使用することで現在のようなキムチの形が根付き始めた。

伝統的なお膳に載せられたハクサイキムチ © 李鍾根
キムチは地域や家庭の生活環境によってさまざまな姿で定着した。東海(日本海)に近い北朝鮮の咸鏡道地域はキムチにチョッカルよりイカ、スケトウダラなどの海産物を多く入れ、平安道地域はゆでたキジ肉を入れたキジキムチが代表的なキムチに挙げられる。江原道は山間地方と沿岸地方でとれる食材を活用したトドク(ツルニンジン)キムチ、イカキムチを、暑い全羅道南部地方ではチョッカルとトウガラシのヤンニョムを多く使い、スープが濃くうまみの強いキムチが好まれた。地域の作物と調和したキムチは地域民に強い自負心と同族意識を感じさせ、小さい頃から食べて育ったキムチの味は大人になっても故郷の郷愁を誘う呼び水になる。


桃の水キムチとチャメ(マクワウリ)のキムチ © ミュージアムキムチ間
韓国人が最も愛する食べ物
今年5月、世論調査会社の韓国ギャラップが全国の満13歳以上の男女1700人を対象に一番好きな韓国料理を尋ねた結果、1位は「キムチチゲ」で、キムチは4位だった。キムチチゲの主な材料はキムチだから、韓国人が最も愛する食べ物がキムチだと言ってもいい。2011年に文化財庁が行ったアンケートによると、韓国人の95%は少なくとも一日に1回以上キムチを食べるという。
韓国人は全ての食材をキムチにすると言われるほど、キムチの種類は多種多様だ。ソウル市内にあるキムチ博物館「ミュージアムキムチ間」のインスタグラムにはゴボウのキムチ、ナスのキムチなど伝統的なキムチのレシピと一緒に、モモの水キムチ、スイカの皮のキムチなど季節の果物を使ったキムチのレシピが掲載されている。何でもキムチにして楽しめるが、現在韓国人のほとんどは年中ハクサイのキムチばかりを食べる。ハクサイのキムチは本来は冬に食べるキムチだ。11月に収穫したハクサイでキムチを漬け、早春まで食べる。これがキムジャンキムチだ。キムチは大きくキムジャンキムチと季節のキムチに分けられる。主に春と夏のキムチである季節のキムチは長い間保存せずに漬けてすぐに食べるもので、オイソバギ(キュウリのキムチ)やヨルム(ダイコンの若菜)キムチなどがある。
韓国人は全ての食材をキムチにすると言われるほど、キムチの種類は多種多様だ。ソウル市内にあるキムチ博物館「ミュージアムキムチ間」のインスタグラムにはゴボウのキムチ、ナスのキムチなど伝統的なキムチのレシピと一緒に、モモの水キムチ、スイカの皮のキムチなど季節の果物を使ったキムチのレシピが掲載されている。何でもキムチにして楽しめるが、現在韓国人のほとんどは年中ハクサイのキムチばかりを食べる。ハクサイのキムチは本来は冬に食べるキムチだ。11月に収穫したハクサイでキムチを漬け、早春まで食べる。これがキムジャンキムチだ。キムチは大きくキムジャンキムチと季節のキムチに分けられる。主に春と夏のキムチである季節のキムチは長い間保存せずに漬けてすぐに食べるもので、オイソバギ(キュウリのキムチ)やヨルム(ダイコンの若菜)キムチなどがある。

ハクサイにヤンニョムをすりこむ様子
無形遺産としてのキムジャン
毎年11月、韓国の家庭はキムジャンをして週末を過ごす。親元を離れ独立した子どもたちは、この儀式を一緒に行うために11月に里帰りする。キムジャンとは、越冬準備の一環として晩秋にハクサイのキムチやトンチミ(ダイコンの水キムチ)などを一度にたくさん漬けることを指す。多くの労働力を必要とし、ほとんどは11月、遅くとも12月初めまでに終える。2013年、ユネスコ世界無形遺産に「キムジャン、キムチ作りと分かち合い文化」が登録された。キムチではなくキムジャンとしてだ。
ユネスコはキムジャン文化を韓民族の本質を形作ってきた重要な文化遺産として認定し、キムジャン文化に対して「キムジャンを行ってキムチ本来の味を知る味覚を持つことは、韓国文化と生活様式を理解するのに非常に重要だ。(中略)キムジャン、さらには『キムチを作ること』は韓国人のアイデンティティーにおいて重要な部分だ」と記した。実際に多くの子どもたちが学校でキムチとキムジャンについて習い、地域社会は大規模なキムジャンイベントを開催してキムチを漬け、必要な人に寄贈する。集まってキムチを漬け、分かち合うことは韓国人のアイデンティティーを再確認することであり、家族や社会の構成員の連帯感を強めることにもなるのだ。
ユネスコはキムジャン文化を韓民族の本質を形作ってきた重要な文化遺産として認定し、キムジャン文化に対して「キムジャンを行ってキムチ本来の味を知る味覚を持つことは、韓国文化と生活様式を理解するのに非常に重要だ。(中略)キムジャン、さらには『キムチを作ること』は韓国人のアイデンティティーにおいて重要な部分だ」と記した。実際に多くの子どもたちが学校でキムチとキムジャンについて習い、地域社会は大規模なキムジャンイベントを開催してキムチを漬け、必要な人に寄贈する。集まってキムチを漬け、分かち合うことは韓国人のアイデンティティーを再確認することであり、家族や社会の構成員の連帯感を強めることにもなるのだ。

ハクサイを塩漬けにする過程。途中で塩水を絞る。 © 楓石文化財団飲食研究所

毎日食卓に上るキムチ
広場の片隅に塩漬けにした白菜を一晩積み上げ、中央にはハクサイの中に入るさまざまな野菜や香辛料、チョッカル、ナッツ類や果物、魚などを入れた赤いコチュカルのヤンニョムがある。そしてこれを囲んだ家族は各自忙しく動き回る。今年も全国で繰り広げられるキムジャンの風景だ。キムジャンを終える頃には台所からゆでた豚肉が大皿に乗せられて出てくる。塩漬けのハクサイ、ヤンニョムと一緒に豚肉のポッサム(野菜包み)を食べることでキムジャンの儀式が締めくくられる。
キムジャンキムチ、作って味見する
ソウルの仁寺洞にある「ミュージアムキムチ間」はキムチ文化を研究し、広めるために設立された韓国初のキムチ博物館。さまざまなキムチを見て味わい、直接体験できる空間としてキムチの歴史や種類、発酵やキムジャン文化などを展示しており、ハクサイのキムチと白キムチが作れる体験プログラムを運営している。ホームページで予約すれば、実際にキムチを作って味見することができる。

ミュージアムキムチ間の展示スペース © ミュージアムキムチ間

英語で行われるキムチ体験プログラムに参加した観光客 © ミュージアムキムチ間

キムチを含む世界のさまざまな漬物も紹介している。 © ミュージアムキムチ間

毎年11月に市庁前のソウル広場で開催されるソウルキムジャン文化祭。今年は11月1日から3日まで開かれる。
もっと知りたい、キムジャンとキムチ
キムチの歴史と調理法に興味を持ったなら、次の2冊の本がよい道しるべになるだろう。「キムチ見聞録」は1950年からキムチの研究を始め、約50年間キムチだけを研究してきたキムチ博士の金晩助女史が共著者として参加した本だ。キムチの歴史と文化、哲学と風習が盛り込まれたこの本は、キムチを作る行為(キムチのヤンニョムとして使われる材料を作り、ハクサイを塩漬けにし、キムチを地面に埋めることなど)、キムチの材料になる野菜に関する話を人文学的に解き明かした。

「朝鮮シェフ徐有グのキムチ物語」に掲載された伝統的な漬け方の再現過程の一部 © 楓石文化財団飲食研究所

「朝鮮シェフ徐有グのキムチ物語」に紹介された調理法で作られたハクサイキムチ © 楓石文化財団飲食研究所
「朝鮮シェフ徐有グのキムチ物語」は、伝統的キムチの調理法を学べる一冊だ。英祖の時代の学者、徐有グが著した料理本「鼎俎志」の中から野菜を使った40種類の伝統料理を復元し、これを基に現代風にアレンジした24種類のキムチ、例えばトマトのキムチや果物のキムチなどの調理法を写真とともに収録した。